司法書士法人ソレイユ 代表社員 司法書士
杉谷 範子
人生100年時代を迎えた今、従来の死亡に備えるだけでは足りません。「任意後見」「遺言」「信託」「保険」を4本柱とした、生前対策を含めた相続を「新・相続」と名付けて、この連載で紹介しています。
ソレイユ工務店㈱の巻〈前編〉
(本稿に掲載された会社名、個人名はすべて仮名です)
日本の企業359万社のなかで、中小企業は358万社あり、その内訳は小規模企業が305万社、中規模企業が53万社(2020年版中小企業白書)で、年々、減少の一途をたどっています(図1。
出所:URL:https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b1_3_1.html
)。
しかも、コロナ禍において経営環境が悪化する企業が増加するなか、企業の継続はさらに困難な状況です。後継者へ早期に事業を承継して業績が上がっている会社には、日本の屋台骨としてさらなる発展を遂げていただきたいのですが、事業承継に成功しているように見える会社でも、社長にはさまざまな悩みがあるようです。
家族構成、会社概要
ソレイユ工務店㈱の会長本田茂さんは70歳。家族構成は、専業主婦の妻雪子さん(65歳)、長男賢司さん(40歳)、長女さくらさん(37歳)です。
住宅建築で地域ナンバーワンの実績があり、現在、茂さんは会長職で第一線は退き、長男の賢司さんが社長として、さらにパワーアップして業績を伸ばしています。
社長の賢司さんは、大手ハウスメーカーで10年弱修行をしたのち、ソレイユ工務店に入社しました。もともと、地元で有数の工務店でしたが、賢司さんは入社するなり、「おやじの傘のもとには入らない! 自分の傘を持つ!」と、独自の営業戦略で新たな顧客を広げてきました。
長女のさくらさんは、公務員の夫と子供2人に恵まれて、専業主婦として幸せに暮らしています。
家族はみな仲良しで、夏休みなどを利用して一族そろって海外旅行に行くのが、年中行事になっています。
会長は第一線を退いたものの、会社には関わっていたいようで、週に2~3日程度は顔を出しています。社長は会長に会社の経営方針などを相談し、了解を得ながら進めています。
会社の株主構成は、発行済み株式数が500株で、茂さんは400株、妻雪子さんは50株、長男賢司さんは40株、長女さくらさんは10株です。株式の評価が高いため、会長から社長への株式の移転がなかなか進んでいない状況です(図2)。