株式会社アウトバウンド・マネジメント(OBM INC.)
代表取締役 税理士
日上正之
現況の新型コロナウイルス蔓延(まんえん)下にあって、数多(あまた)ある日系中国子会社および中国関連会社を今後どうすべきかの検討は、本社にとってまさに死活問題となります。ただ、製造業のサプライチェーン(供給網)上、中国との関係は切っても切れない関係となっており、中国撤退および事業縮小は完全に本社側が主導し、正面から真剣に考えなければならない問題です。この数カ月、日本や世界が静観しているときこそ、十分掘り下げた検討を本社側で行う絶好の時期であると思われます。
本連載では、案件数の多さから中国撤退コンサルタントと称される日上正之税理士に、6回にわたってその外観を書いていただきます。
1.持分譲渡の条件
持分譲渡とは、日本の親会社の出資持分を第三者(または関連者)に有償譲渡して、資本を引き揚げることをいいます。一般的な中国の三資企業の場合、株券を発行しておらず、株式会社ではなく、また株券自体もありませんので、株式譲渡というのは正確な言い方ではなく、「出資持分譲渡」をいいます。
出資持分譲渡の特徴は、現地法人の法人格、権利義務、債権債務、優遇措置などがそのまま継承されます。つまり株主(親会社)が代わるだけです。見方を変えると、出資持分譲渡の方法は最も問題が少ない撤退方法であるということができます。出資持分譲渡に関するイメージは図1のようになります。
出資持分譲渡には、とりわけ特別な許認可や条件はありません。売手企業と買手企業の双方が相対(あいたい)価額で合意をしていて売れればよく、譲渡人、譲受人双方の合意があれば決定されます。
しかしながら、生産としての許認可は現地政府や当局への申請・交渉が必要となります。業種によって何らかの制限を受ける場合もありますが 1、基本的には双方が中国での出資持分譲渡手続きを遵守(じゅんしゅ)すれば問題はないというのが通常です。