株式会社アウトバウンド・マネジメント(OBM INC.)代表取締役 税理士 日上(ひかみ)正之
現況の新型コロナウイルス蔓延(まんえん)下にあって、数多(あまた)ある日系中国子会社および中国関連会社を今後どうすべきかの検討は、本社にとってまさに死活問題となります。ただ、製造業のサプライチェーン(供給網)上、中国との関係は切っても切れない関係となっており、中国撤退および事業縮小は完全に本社側が主導し、正面から真剣に考えなければならない問題です。この数カ月、日本や世界が静観しているときこそ、十分掘り下げた検討を本社側で行う絶好の時期であると思われます。
本連載では、案件数の多さから中国撤退コンサルタントと称される日上正之税理士に、6回にわたってその外観を書いていただきます。
1.撤退スキームの論点
中国国内の景気後退に加え、米国との貿易戦争が重なり、とりわけ米国へ製品や半製品を輸出する商流か、または米国から中国へ輸出する商流で中国事業を回してきた日系企業に対して、事業縮小や事業停止にとどまらず、最終的には撤退せざるを得ないという選択肢を選ばざるを得ない場合が散見されます。最近になって、中国事業を継続するために事業縮小(リストラ)を行うことで何とか現地事業を持たせているという傾向が強くなっていることを痛感します。
一般的に事業再編の観点から、グループ企業を中国内にそれなりに有しており特殊再編税制の活用1をも勘案した場合、前回撤退スキームとして述べた⑴持分譲渡、⑵普通清算、⑶破産清算のスキーム以外に、以下のスキームを挙げることができます。
①現行現地法人をそのまま残し移転を前提とした合併
合併に関して説明しますと、この再編は対象会社を消滅会社とする吸収合併です。合併には、貸借対照表上、合併企業の総投資額と被合併企業の総投資額の和とされ登録資本金額も両企業の和とされるとか、企業所得税の優遇税制や免税処置を引き継げるとか、欠損金を補填(ほてん)期限内は引き継げるといったメリットがあり、手続きもそれほど困難を伴うものではありません。