瀧 俊雄
株式会社マネーフォワード取締役 兼 マネーフォワードFintech研究所長。慶應義塾大学経済学部卒。野村證券株式会社を経て、株式会社マネーフォワードの設立に参画。経済産業省「産業・金融・IT融合に関する研究会」に参加。金融庁「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」メンバー。

 先月、マネーフォワードでは、高齢者のお金の見守りに向けた取り組みを公表しました。金融サービスの世界では近年、フィナンシャル・ジェロントロジーと呼ばれる、高齢者のお金に関する社会課題を正確に捉え、対応を検討する動きが見られています。
 2025年には認知症患者数が700万人にも達すると見られるなかで、本人のみならず家族や周辺の人たちも含めて、お金のケアを行っていくことは、今後の大きな社会課題といえます。
 高齢者とお金の問題は古くて新しい問題です。日本では長らく高齢者のお金の問題は、家族のなかでうまく補完し合うことが主な解決手段とされてきました。しかし、仲の良い家族ほど、いざとなったときの遺言や財産目録を作成することは「縁起でもない」と思って忌避されます。
 また、要介護の状態が進行し、法定後見の制度を利用した場合には、ご本人の資産によって大型の消費(家のリフォームや家族旅行など)を行うことにも制約が生まれるほか、制度を利用するコスト(月1万~3万円)が発生します。もちろん、これらの制度の利用を見越してあらかじめ準備ができていればよいのですが、自らや家族の認知力が低下する変化は、なかなか受け入れることが難しいものです。
 ただ、95歳以上の方に占める認知症の有病率は79%以上という統計もあり、認知症は「症」という字から想起される、正常ではない状態というよりは、平常な人生の延長のなかで、髪や歯が抜けていくのと同じように発生する現象、と捉えるべきなのかもしれません。当社での取り組みでは、このような将来に向けた備えを積極的に、前向きに行うことを促せないかと考えています。
 このような考え方は、ある種、経営の現場にも相通ずるものがあるかもしれません。例えば従業員やビジネスモデルといったものは、ある程度の習熟を経つつも、どこかでパフォーマンス上はピークを迎え、何らかの新陳代謝を必要としていくものでもあります。
 ただ、実際には私たちは、それこそ精魂を込めて経営をするほどに、そのあり方に関して保守的に、ないしはこれまでの延長線上での意思決定を取ってしまいがちです。
 長期にわたってよい仕事を生める仕組みをつくっていくためには、真に必要な成果の数値化と、周囲からもそのような保守性のバイアスに配慮したアドバイスを得ていくこと、そして顧客を見続けることで変化を見失わないこと。極めて当たり前ながらも、これらの要素はより一層、重要性を帯びていくのかもしれません。

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