税理士法人久保田会計事務所 代表社員 久保田博之氏
SS経営コンサルティンググループ 代表社員 鈴木宏典氏
本連載ではこれまで、未来会計・経営計画に携わる方々から、数々の貴重なお話を伺ってまいりました。全20回の連載のなかからMAS監査事業化推進のヒントとなるお話を厳選してお届けします。

〝潔さ〟という魅力

税理士法人久保田会計事務所
代表社員 久保田博之氏

未来会計に強い事務所へ

浅野 久保田先生が未来会計を主軸と考え提供していくなかで、苦労されたことや課題を教えていただけますか。

久保田 未来会計の業務を提供するにあたっては、それを提供する人材が必要となります。その人材を育てる、教育していくというのが苦労した点です。初めは全員がMAP3を使って、お客様に予算と対比を出せるようにしようということでスタートしました。
 当初は今ほど行動計画という部分を重視していなかったと思います。数値計画だけでも、未来が見せられるということに大きな価値があるというイメージでやっていました。それならば、会計事務所の従来型の業務の延長でできたかもしれませんが、そこから経営計画の達成率を見るようになり、目標を本当に達成していこうと思うと、PDCAが必要になってきます。そこには当然、行動計画がいるというところにどんどんサービスが洗練されていきました。そのうち、やはりこれは全員がやるのは難しいと感じました。そこから部門を分けて、できるだけ兼務しないように業務の棲み分けを行いました。

浅野 久保田先生の事務所では、やることとやらないことをしっかり決めて、会計事務所ができる経営支援の型を定められているという印象を受けます。そこに至った経緯を教えていただけますか。

久保田 MAS監査を始めて、20件くらいになってきたころは、属人的なサービスになっていました。それぞれの担当者がお客様のニーズに合わせて作り込んでいくので、こんな経営管理の帳票を作ってほしいとか、作業をどんどん押し付けられてしまうという経験をしました。それをやってしまうと、1件あたりにかなりの時間を取られてしまい、業務の広がりを止めてしまいます。お客様も自立しません。
 そこで、事務所としてのスタンダードな標準型を固めることにし、フレームができるまでに1年以上かかりました。ベテランも新人も同じフレームで、それ以上のこともそれ以下もやりません。

浅野 作業は受けないということですね。

久保田 受けません。

浅野 やることとやらないことをしっかり決めることは大事ですね。

久保田 はい。そうすると、だいぶすっきりしてきます。

浅野 報酬に関してはどのようにお考えでしょうか。今、日税連が出している統計では、会社の60%近くは3万円以下しか払っていないという現状があります。そこからすると、MAS監査が月1回の訪問・2時間程度で10万円という話は、その3倍になります。頂く報酬に対しての心理的なハードルが高くなってしまっているように感じます。そのあたりは、何か工夫されていますか。

久保田 10万円頂いても、会社に10万円以上の利益をもたらせば、タダのようなものです。もちろん、実際には払っていただいていますけれども、お客様にとっては1円も負担になっていません。ですから、「投資と考えてください」とお伝えします。10万円以上儲かる投資をしますか、しませんか、ということです。その代わり、やるからには成果を出す覚悟は必要です。覚悟さえ持っていれば、10万円は高いわけではありません。
 また、ハードルが高いと感じる理由は、もうひとつあると思います。私たちは、税務会計の考え方で、仕事が永遠に続くように思ってしまいます。しかし、今当事務所ではMAS監査を「3年を一区切り」に考えています。3年で会社の体質は変わっていく。そこまでお手伝いさせてもらう。3年経ったときに完璧に自立されていて、「もうMAS監査はいらない」と言われたら、それはそれでいいと思っています。

浅野 3年経って自走できるような状態、自立できるような状態であれば、それはひとつのサービスとして完結するということですね。

久保田 はい、そのように考えています。

(2016年10月号掲載)

久保田博之
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久保田博之(くぼた・ひろゆき)
税理士法人久保田会計事務所 代表社員
昭和39年 京都市生まれ。昭和61年 税理士試験合格。昭和62年 同志社大学商学部卒業後、久保田会計事務所入所。平成14年に税理士法人久保田会計事務所を設立。「企業と人の継続発展を支援し社会に貢献する」を理念に掲げ、経営支援事業部、財務事業部、相続支援事業部など専門部署を設けて活躍中。
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