司法書士法人ソレイユ 代表社員 司法書士
杉谷 範子
人生100年時代を迎えた今、従来の死亡に備えるだけでは足りません。「任意後見」「遺言」「信託」「保険」を4本柱とした、生前対策を含めた相続を「新・相続」と名付けています。
知的障がい者、精神障がい者が増えている
高齢社会を迎えて、2025年にはいわゆる「団塊の世代」全員が後期高齢者、75歳を迎えることになります。親世代の高齢化に伴って、当然に子ども世代も歳を重ねていきます。
80代の親が、50代の知的障がいや精神障がい、ひきこもりなどで自立できない子どもの世話をしなくてはならない状況を「8050(ハチマルゴーマル)問題」といい、その家族数は増加しています。
在宅での知的障がい者の推移を見ると、平成28年で96万人、平成12年から比較して16年間で約3倍、平成23年と比較して5年間で約34万人の増加が見られます(図1)。また、外来の精神障がい者は平成29年には389万人で、平成14年と比較すると、15年間で74%増加しています(図2)。両者を合わせると、約500万人。日本の人口が1億2600万人なので、全人口の4%の人に知的障がいや精神障がいがあり、在宅で生活していることになります。
4%、25人に1人といえば、小学校のクラスで1~2人の割合でしょう。事業承継や資産承継の支援をするなかで、家族に障がいのある人がいる場合に、専門家としてのアドバイスは難しいと感じている方が多いのではないでしょうか。
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図1 年齢階層別障害者数の推移〔知的障がい児・者(在宅)〕
厚生労働省令和4年8月「成年後見制度の現状」より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/000973029.pdf
8050問題から親なき後問題へ
高齢になった親は近いうちに亡くなることでしょう。そして、その後の子どもの生活は誰が支えていくことになるのでしょうか?
8050問題のすぐ先に見えてくるのは、「親なき後問題」です。
障がいのある子をかかえる親は自分が亡くなった後、子どもが不自由な思いをするのではないかと気がかりで仕方ありませんが、何から始めていいのか分かりません。
そこで、子ども名義の預金を積みたてる、子ども名義で不動産を持たせるなど、「取りあえず子ども名義で財産を殖やす」行動を取る親が多いのが現実です。
しかし、気をつけなくてはならないのは、子ども名義の財産を子ども自身が管理や処分できるのかということです。
子どもが金融機関へ出向いて預金を引き出したり、振り込みをしたりできるでしょうか? 不動産の賃貸契約や売買契約を結べるでしょうか?
同様に、遺言を作成し、直接子どもへ相続させることも要注意です。親から相続した財産の管理を子ども自身ができない場合が多いのではないでしょうか。