人生100年時代を迎えた今、従来の死亡に備えるだけでは足りません。「任意後見」「遺言」「信託」「保険」を4本柱とした、生前対策を含めた相続を「新・相続」と名付けて、この連載で紹介しています。なお、登場する会社や人物は架空のもので、事例は数社の実例を組み合わせております。

中小企業の後継者が既に決まっており、後継者教育も順調に進んでいて安心、と思っていたら、実際に相続が起きたときに予想もしない状況に陥ることがあります。今回ご紹介する会社の事業承継には、どのようなリスクが考えられるでしょうか。

  • 創業者の敬一郎は10年前に亡くなり、現在、会長の公子(85歳)と2代目社長で婿養子の浩二(長女の夫、55歳)と真由美(長女、55歳)が会社経営に携わっている。
  • 敬一郎と公子との間には、真由美と直美(次女、53歳)の2人の姉妹がいて、浩二は公子と養子縁組をしている。
  • 直美は、遠方に嫁いでおり、会社には関係していない。
  • 会社の建物は会社所有で、底地は会長個人所有。
  • 会長の財産は預貯金、自社株、不動産があり、資産総額は数億円。
  • 親族の人間関係は良好で、毎年、盆暮れにはそれぞれの家族を連れて集まり食事をする。

〈懸念事項〉

  • 先日、会長が転倒してしまい、大腿骨骨折で入院した。今は判断能力があるが、将来、重度の認知症になってしまうと、会長名義の預貯金が凍結されて払い出せなくなると聞いた。
  • 次女は、敬一郎の相続では、多くの財産を会長に相続させることについては、異論がなかったが、会長の相続ではどのようになるかはフタを開けてみないことには分からないので、社長と長女は心配している。
  • 会長は、会社に出入りの銀行員の勧めによって、遺言を書いているようだが、その内容について、社長夫婦は遠慮して聞くことができない。
  • 会長は生命保険も契約しているようだが、社長は自らが財産狙いと思われるのが嫌で、保険金額や受取人について、教えてほしいとは言えない。
家族構成
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図1 家族構成

〈リスク1〉会長の生前に起きる可能性があるリスク
→会長の認知症により、預貯金が凍結されるリスク

高齢になると足腰が弱り、転倒することが多くなります。骨折してしまうと心身に大きなストレスがかかったり、単調な入院生活により認知症が進むことがあります。また、入院期間が長期にわたると筋力が衰えて寝たきりになってしまうことも、認知症が進む要因です。
会長は、現在は判断能力があるので、対策を行うには間に合いますが、骨折による入院が長引くと認知症が進み、判断能力が減退する可能性が高まります。
銀行の担当者が会社には頻繁に出入りしているので、会長の判断能力がなくなると預金口座が凍結されることにもなりかねません。判断能力のない人の預金を家族の依頼で金融機関が払い出してしまうと、預金者に相続が発生した後に相続人からクレームがくることも考えられるため、金融機関は慎重になる傾向が見受けられます。

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