司法書士法人ソレイユ 代表社員 司法書士
杉谷 範子

人生100年時代を迎えた今、従来の死亡に備えるだけでは足りません。「任意後見」「遺言」「信託」「保険」を4本柱とした、生前対策を含めた相続を「新・相続」と名付けて、この連載で紹介しています。
前回は、親と同居していない家族のために、実家信託による空き家対策を提案しましたが、今回は、都市部住宅街の一戸建てに母親と同居している家族を紹介します。親と同居して親の介護を担い、墓・仏壇など祭祀(さいし)の承継をしたりと、後継(あとつぎ)さんには大きな負担がかかっています。

高橋家の相続対策

(※登場人物はすべて架空の人物です)
高橋和子さん82歳は、10年前に夫の和彦さんを亡くし、現在、息子の健一さん、嫁の久美さん、孫2人に囲まれて、5人家族で仲良く暮らしています。健一さんには、地方に嫁いだ姉の山田直子さんがいます。
健一さんの自宅は都内の住宅地にあり、父が所有していた土地建物、預貯金を和子さんが相続しています。
和子さんの財産は、自宅不動産が6000万円、預金が4000万円で合計1億円あります。和子さんは常々「いろいろと息子夫婦にお世話になっているから、私が亡くなったら、自宅は健一へ相続させて、預金は健一と直子で半分ずつ分けてね」と口では言うものの、実際に遺言を書くなどの行動は取ってくれていません。
嫁の久美さんは最近、友人が相続で揉めて苦労した話を聞き、わが家族は大丈夫かと不安になって夫の健一さんに相談しました。しかし、健一さんは「お父さんの相続でも揉めなかったのだから、大丈夫」と意に介していないようです。
厚生労働省によると、2020年の日本人の平均寿命は女性が87.74歳、男性が81.64歳。女性のほうが平均的に長生きするようですので、父の相続の際に母がまだ存命で、母が遺産の多くを相続する遺産分割協議でも、子どもたちは納得することが多いようです。高橋家も父の相続では揉めずに母がすべて相続しました。
しかし、父から遺産を受け継いだ母が亡くなり、子どもだけが相続人となった遺産分割協議では、すんなりとはいかないケースも見受けられます。遺言がない場合は法定相続分を基本として遺産分割協議が行われますが、相続人が権利を主張して譲らないと協議が成立しません。

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