司法書士法人ソレイユ 代表司法書士 杉谷範子氏

司法書士法人ソレイユ(本店:東京都千代田区)は、事業承継に特化した取り組みを展開していることで会計業界からも注目を集めている。同法人の代表司法書士である杉谷範子氏は「事業承継は自らのライフワークだ」と語る。今でこそ、事業承継の問題は一般にも知られるほどになったが、杉谷氏が取り組みを開始したのはおよそ15年も前のことである。その事業承継を取り巻く問題を解決する手段として、特に注力しているのが民事信託だ。信託へも早期から取り組み、現在では事業の中心になっているだけではなく、他の事務所への普及活動も積極的に展開している。本稿では、司法書士法人ソレイユの杉谷範子代表に、これまでの取り組みについてお話を伺った。

司法書士が事業承継に向いている理由

―― 司法書士法人ソレイユは、事業承継に特化した活動で広く認知されています。本稿では、ソレイユの代表司法書士である杉谷範子氏に、その取り組みについてお話を伺います。まずは、杉谷先生の足跡をお聞かせください。

杉谷 ソレイユは、司法書士である河合保弘と平成25年に設立した司法書士法人です。
 私は平成14年に試験に合格し、平成15年に司法書士登録をしたのですが、河合とは当時からの知り合いです。といいますのも、河合は新人の司法書士を育てるために、全国でセミナーを開いていて、新人だった私はそのセミナーに参加していたからです。

―― 河合先生はどのようなセミナーを開催していたのですか。

杉谷 私が参加したのは事業承継のセミナーでした。今でこそ事業承継は大きな課題として認識されていますが、当時としてはかなり早い取り組みだったと思います。
 そのころの事業承継といえば、相続税対策とイコールであり、書店には相続税の節税がテーマの書籍しかありませんでした。河合のセミナーでは「事業承継は税金対策ではない」と謳い、会社法からドロドロした人間関係、さらには認知症の問題まで扱っていました。その話を聞いて、ひとつの会社をうまくつないでいくことがいかに社会的に必要なのかと気付かされました。そして、事業承継は私が取り組むべき仕事だと感じました。

―― 世の中ではまだ節税の問題としてしか捉えられていなかった当時、杉谷先生はなぜ司法書士が取り組むべき仕事だと感じられたのですか。

杉谷 相続税以外の事業承継の領域は、登記に付随して勉強する司法書士にぴったりです。その領域には、民法と会社法が関連してきますので、司法書士が得意としているところだと思います。
 さらに、司法書士は争いを好まず、関係者の調整をし、平和に収めることが大切な職種です。こういった点が、司法書士に事業承継が向いていると感じた理由です。

事業承継の課題と信託

―― 河合先生のセミナーをきっかけに事業承継への取り組みを始められたわけですね。

杉谷 そうですね。「事業承継をライフワークにする」と決意し、本格的に取り組みをスタートしました。その後、河合のセミナーで登壇するようにもなったのですが、河合から「一緒に本を書こう」と声をかけてもらったのです。
 私は「オーダーされたら断らない」をモットーにしています。突然のことでしたから、私に執筆できるかどうかは分からなかったのですが、「書きます!」と即答をして、それから必死になって勉強していきました。

―― どのようなテーマの本だったのですか。

杉谷 当時は、平成18年の会社法改正の直後のタイミングでした。内容としては、種類株式の活用方法をできるかぎり分かりやすく解説していくというものです。おかげさまで、種類株式に関してのバイブルのような存在として評価していただけました。
 その他にもさまざまな書籍を上梓しています。執筆のために勉強して、河合とも多くのやりとりをすることで、自身の力にもなりました。
 しかし、実際に業務として事業承継に取り組むなかで、ある現実にぶつかりました。

―― どのような問題に直面したのでしょうか。

杉谷 事業承継をしようと思っても、経営者が遺言すら作成してくれないのです。それは経営者が「自分は病気にならないし、死なない」と考えているからです。「あの企業は遺言の話はタブーで、遺言の話題を出すと顧問契約を打ち切られる」と話す税理士の先生もいました。

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