税理士法人矢崎会計事務所(東京都練馬区)は、70年以上の歴史を持つ老舗会計事務所である。代表の矢﨑誠一氏は、20年間減収が続いていた事務所を引き継ぎ、V字回復を成し遂げた経営手腕の持ち主である。矢﨑氏は事務所の業績を立て直す過程で組織改革を行い、所長がひとりで事務所を牽引(けんいん)する体制から、職員全員がそれぞれの立場で事務所の発展に貢献し、働きがいを感じられるように細やかな工夫を重ねていった。そのような改革の結果、事務所の雰囲気が一変し、サービスの質が向上して顧客満足度が高まり、それがまた事務所の雰囲気をよくするという好循環を生んでいる。本稿では、矢崎会計事務所の取り組みについて、矢﨑氏と、同氏の右腕である遠藤智朗氏、若手スタッフの代表として佐藤彩乃氏と折登 光氏にお話を伺った。(撮影 市川法子)
老舗事務所を承継して組織改革に成功
―― 東京の練馬において地域密着で規模拡大し、74年目になる税理士法人矢崎会計事務所ですが、今日はその3代目となる矢﨑先生と遠藤さん、そして2~3年前から新戦力として加わった若手スタッフの佐藤さん、折登さんにもお話を伺います。2年前のインタビューでは、各職員に対する目標管理システムの導入と、業務改善、税務品質など、各種プロジェクトチームの立ち上げによってⅤ字回復を成し遂げた組織改革の取り組みについて、矢﨑代表にお話しいただきました。
今回はその追跡取材として、コロナ禍をどのように乗り越えてきたのか、その後の組織的変化・進化について伺いたいと思います。まず、事務所の沿革と近況についてお伺いします。
矢﨑 当事務所は、私の祖父が戦後、練馬で会計事務所を開業したのがスタートになります。私自身はもともと会計人を目指していたわけではないのですが、母の死をきっかけに事務所を継ぐ決心をし、会計士の資格を取得後、監査法人トーマツに入りました。その後、2代目である父が病に伏したことで事務所に戻り、3代目所長として税理士法人を立ち上げました。それが9年前です。
以後、業績が下がり続けていた事務所の立て直しに向け、遠藤らの協力のもと、組織改革に取り組みました。この2~3年は佐藤や折登らが新たに加わり、組織の結束力を固めるうえでも大きく貢献してくれています。
コロナ禍対策については、熟慮の末、リモートワークは取り入れないと決めました。理由は、一体感こそが当事務所の最大の長所だと思うからです。その長所が失われるリスクを負ってまでリモートワーク導入に踏み切ることはできませんでした。
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矢﨑誠一(やざき・せいいち)
税理士法人矢崎会計事務所代表社員。税理士・公認会計士。経営心理士。昭和57年生まれ。立教大学法学部卒。平成18年、公認会計士試験合格。監査法人トーマツ (現・有限責任監査法人トーマツ)に入社し、大企業の監査を経験。その後、大手税理士法人を経て平成24年、矢﨑会計事務所入所。平成25年、税理士法人を設立し、代表社員に就任。