2021年1~6月(上期)のM&A件数(適時開示ベース)は447件と前年同期を26件上回り、3年連続で増加した。上期としては2008年(468件)以来13年ぶりの高水準で、昨年来の新型コロナウイルス感染拡大による経済環境の激変がM&A市場にとって追い風となった形だ。取引金額は5兆3799億円で、前年(1兆5081億円)の約3・5倍に膨らんだ。新型コロナウイルスの感染拡大や企業の選択と集中の加速を背景に、企業の事業売却が増加した。企業による生産性向上や規模拡大の動きもあり、M&A市場は活発となっている。
 全上場企業に義務づけられた適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介のストライク(M&A Online編集部)が集計した。
 2021年のM&A戦線は、2016年以来5年ぶりのマイナスでスタートした。1月のM&Aは54件で、前年同月(74件)を3割近く下回った。前年はコロナ禍の前だったことに加え、年明けに2度目の緊急事態宣言が発令され、落ち込みが増幅したとみられる。
 しかし2月以降は、件数、金額がそろって急増。2月、3月は2カ月連続で13年ぶりとなる90件台に乗せ、1都3県の緊急事態宣言の延長と重なったものの、むしろ勢いは増した。こうしたM&Aの盛り上がりは金額面にも如実に表れた。
 月間の取引金額は2月から4月まで初めて3カ月連続で1兆円の大台に乗った。1~2位を占めたのが「日立案件」。これにパナソニック、ルネサスエレクトロニクス、ブリヂストンなどが続いた。
 日立製作所は米IT企業のグローバルロジックを1兆368億円で買収する一方、上場子会社の日立金属を売却することを決めた。日立金属を巡っては日米投資ファンド連合がTOB(株式公開買い付け)で株式47%を買い付けたうえで、日立保有の残る53%の株式を取得するもので、総額約8100億円に上る。
 5〜6月は件数、金額とも一服感が広がった。件数は2カ月続けて前年に届かなかったが、水準そのものは依然として高く、失速の懸念はなさそうだ。
 上期のM&A全447件の内訳をみると、買収331件、売却116件(買収側と売却側の双方が開示した場合は買収側でカウント)。このうち海外M&Aは85件で、前年同期の71件から2割増えた。なかでも目を引くのが売却の増加だ。上期は116件(うち海外案件32件)を数え、前年同期の81件から4割以上増えた。この結果、全M&Aに占める売却の割合は26%と、前年同期の19%より7ポイント増えた。
 新型コロナによる事業環境の変化を受け、国内外で不採算事業や非中核事業の切り離しを積極的に進めている様子が浮き彫りになったといえる。

IT・ソフトウエア業界の2021年4〜6月のM&A、件数は過去最多

 IT・ソフトウエア業界の2021年4〜6月のM&A発表件数は38件で、4〜6月としては、2012年以降の10年間では、2020年の36件を上回り過去最多となった。
 取引金額は約8276億円で、4〜6月としては2012年以降の10年間では2016年の約8379億円に次ぐ2番目となった。7000億円を超える大型の案件があったため、金額が大きく伸びた。
 取引金額のトップは、パナソニックが製造業や流通業、物流業などの業務を効率化するためのサプライチェーン(供給網)用ソフトウエアの専門会社である米ブルーヨンダー(アリゾナ州)の株式80%を取得し、子会社化すると発表した案件で、買収金額は株式取得で56億ドル、有利子負債の返済を含めて71億ドル(約7800億円、ほかにアドバイザリー費用約30億円)。
 パナソニックは2020年7月にブルーヨンダーの株式20%を取得しており、今回の株式の追加取得で完全子会社化する。顧客企業の生産性向上などに向けたサプライチェーンマネジメントサービスを強化し、世界規模で事業拡大につなげるのが狙いで、2021年度第3四半期(2021年10~12月)までに買収完了を見込む。
 取引金額の2番目はAOI TYO Holdingsが、米カーライル・グループと組んでMBO(経営陣による買収)で株式を非公開化すると発表した案件で、買付代金は最大213億9058万円。
 中江康人代表取締役グループ CEO(最高経営責任者)ら経営陣の依頼に基づき、カーライル・グループがTOB(株式公開買い付け)を実施し、全株取得を目指す。
 AOI TYOはテレビCM制作のトップ企業だが、コロナ禍の影響拡大でCM需要が大幅に減少し、2020年12月期決算は営業赤字に陥った。こうしたなか、広告のデジタル化への対応などを進めるうえで、非公開化を通じて中期的な視点で経営を進められる体制を作り出すことが不可欠と判断した。
 金額の3番目はPKSHA Tech­nol­o­gyが買収目的会社を通じて、オウケイウェイヴのソリューション事業を買収することを決めた案件で、取得金額は73億1400万円。オウケイウェイヴが対象事業を会社分割して設立する新会社PRAZNA(東京都港区)の全株式を取得する。
 オウケイウェイヴのソリューション事業は、法人向けFAQ(よくある質問)/お問い合わせ管理システム「OKBIZ.」シリーズなど。PKSHAはグループ企業を通じて展開する自動応答エンジンとの掛け合わせにより、高付加価値化などにつなげる。
 このほかに10億〜50億円台が5件、10億円未満が9件、金額非公表などが21件あった。

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