M&A「コロナ禍影響せず」が6割、経営者心理が大幅に改善
~ストライクがアンケート

 M&A仲介大手のストライクが、3月に中小企業の経営者にアンケート調査をしたところ、新型コロナウイルスの感染拡大が「M&Aや事業承継に影響していない」との回答の比率が6割近くに上った。昨年6月の調査時には36%にとどまっていた。「マイナスの影響がある」と答えた経営者も3割強と昨年6月の5割超を大きく下回り、経営者の心理が大幅に改善していることが明らかになった。
 世界的なコロナ禍がなお続くなか、ストライクは3月24~26日の間、インターネットを通じてアンケート調査を実施した。中小企業の経営者が対象で、有効回答数は330人だった。
 「コロナ禍がM&Aや事業承継に与えた影響はあるか」との質問に対して「ない」と回答した経営者の比率は3月に59%に上り、昨年6月調査と比べて23ポイント高くなった。昨年10月時点の調査と比べても15ポイント改善している。「マイナスの影響がある」との回答の比率は33%となり、昨年6月と比べて20ポイント低下した。昨年10月調査と比べても3ポイント低下した。
 「コロナ禍によるM&Aや事業承継への影響がない理由」については、64%が「経営への影響がそれほどないため」と答えた。「コロナ禍の影響はあるが、M&Aや事業承継は必要であると考えているため」との回答は35%だった。
 コロナ禍で取りやめたM&Aや事業承継も中期的に検討すると答えた経営者は72%に上った。M&Aの買い手は100%が検討すると回答しており、買い手がM&Aに積極姿勢を続けていることが浮き彫りとなった。日銀による超金融緩和で資金調達環境が改善していることに加えて、株高や不動産価格の上昇など国内の資産価格の上昇で、企業やファンドなど資金の出し手のバランスシートに余裕が出ていることが背景にあるとみられる。

都道府県別のM&A件数、東京に集中~ストライク調べ

 2020年の都道府県別のM&Aは東京都が2位の大阪府を6倍近く引き離し、圧倒的な1位だった。人口が多く、商圏の大きい東京への集中がM&Aでも進んでいることがみてとれる。東京に続くのは3大都市圏近郊の府県だった。地方都市の福岡県、北海道も上位10位内に入った。東京だけでなく、経済規模の大きな都市周辺部で、企業の合従連衡や新陳代謝がより速く進み、生産性が向上しているようだ。
 上場企業に義務づけられた適時開示情報をもとに経営権が異動するM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介のストライク(M&A Online編集部)が集計(次ページ表)。今回は、都道府県別に買い手、売り手、対象(子会社化や事業取得などのターゲット)のいずれかの立場でM&Aにかかわった件数をカウントした。
 例えば、大阪府のA社(買い手)が東京都に本社を置くB社(売り手)の茨城県にある子会社C社(対象)を買収したケースでは、大阪府、東京都、茨城県がそれぞれ1件。逆に同じ県内で全てが完結する場合は当該県の1件のみという計算になる。
 2020年に最もM&Aが多かったのは東京都で676件だった。東京都は2018年以降の3年間をみてもほかの道府県を圧倒している。2位の大阪府も3年連続で100件以上に達しており、高水準が続いている。愛知県と神奈川県もM&Aの件数は毎年50件以上に上り、3位を争っている。
 一部の地方都市も健闘した。福岡県は3年間のトータルで100件近くのM&Aがあり、首都圏、近畿圏の多くの県を押しのけて5位につけている。北海道も、2018年15件→2019年17件→2020年25件と増勢をたどっている。2020年の内訳をみると、25件中13件は、道内企業が買い手としてかかわった案件。道内に本社を構えるアインホールディングス(調剤薬局)、ツルハホールディングス(ドラッグストア)、ニトリホールディングス(家具・インテリア)といった全国トップクラスの大手小売業がM&Aに積極的だ。
 一方で地理的に最も南に位置する沖縄県の過去3年間の件数は11件にとどまり、11件のうち10件は県内企業が買収対象となった案件だ。3年間でM&A件数が5件以下という最下位グループは青森県、岩手県など11県を数える。いずれも県内に買い手に回ることの多い上場企業数が少ないことなどが共通する。なかでも宮崎県はここ3年間で1件(被買収案件)のみだった。  

ストライクが本社を5月に移転へ 業容拡大で

 M&A仲介大手のストライクは5月に東京本社を移転する。移転先は千代田区大手町の三井物産ビル内。連休明けの5月6日から移転先での業務を始める。オフィスの面積は現在の1・5倍の1400平方メートル程度となる。中小企業のM&Aや事業承継のニーズ拡大を背景に、ストライクは2022年9月期に200人体制にすることを目指している。業容拡大や人員増加に対応し、職場環境の充実や業務の効率化を目指す。

都道府県別の件数動向

2018年 2019年 2020年 3年間計
北海道 15 17 25 57
青森県 3 1 1 5
岩手県 2 1 2 5
秋田県 1 3 0 4
宮城県 10 10 9 29
山形県 3 1 1 5
福島県 6 6 9 21
群馬県 3 8 11 22
栃木県 8 5 7 20
茨城県 5 7 11 23
埼玉県 26 22 27 75
千葉県 22 23 17 62
東京都 608 611 676 1,895
神奈川県 53 63 52 168
山梨県 1 4 4 9
長野県 17 16 16 49
新潟県 8 9 11 28
富山県 2 4 6 12
石川県 4 7 10 21
福井県 5 6 1 12
岐阜県 12 14 10 36
静岡県 19 15 14 48
愛知県 54 58 60 172
三重県 1 3 6 10
滋賀県 8 7 2 17
京都府 22 26 24 72
大阪府 105 137 113 355
兵庫県 19 31 33 83
奈良県 2 0 3 5
和歌山県 1 5 2 8
鳥取県 0 1 2 3
島根県 3 1 3 7
岡山県 4 8 8 20
広島県 6 16 9 31
山口県 2 3 4 9
徳島県 2 2 2 6
香川県 4 6 5 15
愛媛県 6 5 8 19
高知県 2 2 1 5
福岡県 21 36 31 88
佐賀県 0 4 0 4
長崎県 1 1 2 4
熊本県 5 5 6 16
大分県 4 1 5 10
宮崎県 0 0 1 1
鹿児島県 3 1 1 5
沖縄県 3 4 4 11

※買い手、対象企業・事業、売り手の所在地を集計。例えば、買い手、対象、売り手が同一県であれば、1件とカウント。

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